承継
軌跡

信念に駆け抜けた人生

  • 兵庫県が舞台の作品に『播州平野』がある。
  • 百合子は、十七歳のとき「貧しき人々の群」で文壇に鮮烈にデビューし、女性の自立を追求した作品「伸子」を発表した後、1928年新しい発展をもとめてソ連、ヨーロッパで生活。30年帰国するとまもなく、プロレタリア文学運動に参加し、31年10月には日本共産党に入党。侵略戦争と治安維持法が猛威をふるった暗黒の時代に「一九三二年の春」「刻々」「乳房」などを書きました。
  • その後も、たびかさなる検挙、投獄、執筆禁止の迫害に抗して時局を批判する創作や発言をつづけ、また、夫宮本顕治の12年にわたる不屈の獄中闘争をささえました。そのたたかいは、野蛮な権力によっても打ちひしがれることのなかった理性と良心のあかしとなり、戦後の百合子の飛躍、発展を準備するものともなりました。
  • 百合子は、戦後せきを切ったように執筆活動、発言を開始。民主主義文学運動・婦人運動の先頭に立ちました。そのなかで「播州平野」「風知草」「二つの庭」「道標」などの小説でだれよりも早く新しい世界と人々を描き、また女性の解放、平和のためのたたかいに献身しつづけました。
  • しかし、文学的にも人生の上でもこれからというとき、1951年1月21日、五十一歳で急逝しました。
  • 停滞ということを知らない人でした。戦前の半封建的な制度のもとでの女性にたいする抑圧に苦しみ、侵略戦争のもとでの野蛮な弾圧を受けながらも、正面からこれらに立ち向かい、人間として、作家として、思想家として絶えず成長し、発展していきました。彼女の生涯と文学 ― この新しい全集に収められた小説、評論、感想、日記、手紙などのすべては、いつも私たちを励まし“いかに生きるべきか”“何をなすべきか”を考えさせてくれます